座りの悪い盆(信州シリーズ1)
視界がさらに開けて、小百合と亜紀が同時に叫ぶ。
「わー、きれい!」

清一も思わず見とれて、
「すばらしい景色だねえ」
心の底からそう思って叫んだ。

18歳で東京に出るまで暮らしたこの村が、こんなに
すばらしい大自然に包まれていたとは今まで気付かな
かった。おろかな人間の欲望に翻弄されて、

もう故郷へは絶対帰るまいと心に誓って20余年、時
とともに清一の心情も大きく変化しようとしていた。

ゴンドラの終点に着いて三人、軽やかな気分で
次のリフト乗り場へと歩む。

「今度はリフトだ、これは難しいぞ」
「ほんと?」
「大丈夫よ。3人乗りだから真ん中に座らせてあげる」
「わーい、よかった!」

リフトは3人並んで座る。前の人と同じようにまねをして
すっと何とか楽に座れた。亜紀の緊張は一瞬だった。
清一と小百合に挟まれて幸せが心を包んでいた。

リフトはとてもゆっくりと上昇していく。足が届きそうな
所もある。笑顔一杯の三人の姿。さわやかな風、
新緑の香り、残雪の山なみ。
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