狼先輩。
「千沙、教えろって言って……」
「資料室、よ」
ポツリ、と小さくそう言うと、皐月は一瞬目を大きく見開いた。
そして、
「ちょっと俺外すから松井よろしく!」
皐月はそう言うと、部員の返事も聞かずにそのまま走って行ってしまった。
「……」
あたしは、その後ろ姿をじっと見つめることしかできなくて。
きっと、今、皐月の頭の中は“渡辺ことり”でいっぱいだ。
“渡辺ことり”
悔しいけど。認めたくないけど。
あの子は、
――皐月の大切な子。
皐月の大切な子。*fin