平穏な愛の落ち着く場所


『何の用だ』

『いやいや、それを言わせるつもりかよ!
 おまえはまだ勤務中のはずだろ?
 秘書が狼狽えて泣きついてきたぞ』

『予定は全てキャンセルしとけ、理由は
 体調不良でもなんでもかまわない』

『はい畏まりましたとは言えないから
 電話してるんだろうが。
 例の駅地区開発に問題ありみたいだぜ?』

『俺がいなく……』

『形勢逆転、進来商事のやつら何か奥の手
 出したみたいだ』

『はあ?今さら何を?』

『とにかく、おまえがいないとダメらしい』

『ちっ、無能なやつらめ』

『なんか言ったか?』

『30分で戻るから資料揃えとけ!!』

崇はここに越してきて初めて、会社までの近さを呪った。

『ほう?その時間で千紗ちゃん満ぞ……』

『浩輔、殴られたいのか?』

その声はまさに狼が唸るようで、浩輔は目の前の誰もいないデスクに向かって手を上下させた。

『わかった!わかった、どうどう……
 資料はもう揃ってる、先方に連絡しておく
 から、一時間後、下に車を行かせるよ』

『ああ』

崇が子機を戻すと、千紗は追い出すようにベッドから彼を押し退けた。

『ほら、お仕事に行かないと』

『そのようだ』

素直に立ち上がった彼に寂しさを感じながら
自分も起き上がって、何か羽織るものを探そうとすると、さっと抱き上げられた。

『ちょ、ちょっと!何するの!?』

『何ってシャワーだよ、おまえがさっき一緒
 に浴びようって言っただろ』

『言ってないわよ!』

彼の胸を人差し指で突いた。

『言ってない?』

私を見下ろす瞳が可笑しそうに煌めいた。

『あっ……』

長く熱く、そして強く貪るようなキスをされて、消えかけていた千紗の欲望にも火がついた。


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