平穏な愛の落ち着く場所

3.



『ねえ!あなたの計画だと、私が
 あなたの秘書を千紗に押し付けるはず
 だったと思うんだけど?』

昼休みになって、冴子は夫と共に
崇のオフィスに乗り込んできた。

『計画は変更を余儀なくされるものだ』

『はあ?それで?』

『それで、とは?』

事の成行を楽しんでいた浩輔だったが、
愛する妻の地団駄を見て、雲行きが
怪しくなるのを感じ取った。

仲の良いこの従兄弟同士は、喧嘩しだすと
回りに飛び火する。

一番の被害者は、むろん自分だ。

伝書鳩のように、二人の間を行き来するのは
ごめん被りたい。

『どうして千紗が社食に戻っているのよ!』

『俺のコネを使ったからだ』

『はあ?!嘘言いなさい!
 千紗はね、そういうの嫌いなのよ!』

『いや、冴子そもそも契約は更新される
 はずだっただろ?おまえのコネで……』

浩輔を見た冴子の美しい眉が
綺麗に片方だけつり上がった。

『……いや、なんでもないよ』

《腰抜け!》
崇は声に出さず、唇だけで浩輔に言った。

途端に、浩輔は顔をしかめる。

鳩になどなってやるものか!


< 52 / 172 >

この作品をシェア

pagetop