平穏な愛の落ち着く場所

4.



エレベーターで最上階まで来ると、
千紗は渡されたカギをバッグから出した。

複雑な凹凸をしたカード型のそれを
信じられない気持ちで見つめる。

心が弱くなっていたのよ。

そう、心が折れそうになる程の悪い事が
立て続けに起きれば、誰だって藁にも
縋ってしまうはず。

ああもう!
彼は…崇さんは藁ではない。

《俺を頼れば?》と言われた時に
頭にあったのは、何か仕事を紹介して
もらう事だった。

例えば……そう、社食の調理場や社屋の
清掃業とか?

もちろん、社食の仕事を続けさせて
もらえた事には感謝している。

勤務時間や日数が減ると言われて、
別の仕事も探さなければ、と彼の前で
呟いてしまったのが、いけなかったのよ。

『まさか、彼の家なんて……』

ため息と一緒に心の声がこぼれ出た。

誰もいない部屋の前でぐずぐすしたって
仕方ないのはわかっていても、
気が付いたら、この仕事を引き受けていた
自分の頭を疑ってしまう。

それでも、仕事は仕事だ。
これで紗綾との暮らしが安定する。

千紗は何とか自分を納得させて、
鍵を使って扉を開けた。

『おじゃまします』

中に入って、廊下を進む。
まずはリビングへ行き、一人暮らしには
贅沢過ぎる広さに羨望の溜め息をついた。

中古だと言っていたが、新築のように
綺麗だし、このリビングとダイニングだけで
我が家の狭い1LDK が入ってしまう。

『さて、どこからやればいいかしら?』

自宅から持ってきたエプロンをして
気合いを入れて、まずは洗濯かしらと、
バスルームを開けた。


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