平穏な愛の落ち着く場所

崇は浩輔を促して、リードを引き近くのベンチに腰を下ろし持っていたトートバッグから水のペットボトルと器を出した。

浩輔がまた笑いだしそうなのを、
ジロリと睨んで牽制する。

ペットショップの店員に薦められるがままに買った馬の蹄を与えると、クインはその場で大人しく噛みだした。


『実は昨日……』

これまでをかいつまんで話すと、浩輔がうつ向いてニヤリと笑った。

『何故おまえがお迎えに行かなければ
 ならなかったのかは、千紗ちゃんの為に
 あえて、聞かないでおこう』

『ふん』


『崇、本気か?』


『ああ』


『同じ事の繰り返しは……』


『本気だと言ってるだろ!!』


その声に耳をたたんで小さくなったクインの頭を、浩輔は優しく撫でてやる。


『紗綾ちゃんの事は?』

『浩輔、あの娘は……』

崇の顔を見て、浩輔はふっと笑った。

『かわいいよな』

『かわいい?そんなもんじゃないな』

崇は薄く笑って首を振った。

『ん?』

『二十歳になる頃には男が
 あの娘の後ろに列をなすだろうさ』

その言葉に浩輔も口元を緩めた。

『まったく同感だね、あの娘の魅力に参ら
 ない男はいないだろうな』

『ああ、俺は会って10分もしないうちに
 骨抜きにされたよ』

言いながら崇がクインを抱き上げる。

『なるほど。それでそれか』

紗綾ちゃんはずっと犬を欲しがっていた
来年の誕生日までに、千紗ちゃんを説得できなければ強引にプレゼントしよかと思っていたのに。

『あの小悪魔にしてやられたのさ』

なぁと言ってから、バタバタと暴れるクインを蹄の元に戻してやる。

仔犬を撫でる崇の顔を見て浩輔はドキッとした。

鋭い瞳で周りを圧倒している狼にも、こんな優しい瞳があったとは……


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