平穏な愛の落ち着く場所

4.


重い瞼を上げてぼんやりとした視界に
白い天井が写った。

あれ?ここは?

右手が握られているのでそちらを向こうと
頭を動かすと、激しい目眩に吐き気が
襲ってきた。

『千紗?』

この声の主は顔を見なくてもわかるけど

どうしたんだろう?

こんなに不安そうな声は初めて聞く


『ここは?』


『病院だ』


病院?

なぜ?

しかも、


『どうして崇さんが?』


『蒼真から電話をもらったんだ』


そうまって……

ああ、

崇さんの親友の……

さらさらの黒髪で、涼しげな目元で、
薄い唇が貴族のような気品のある顔立ちの

結城蒼真さん

高校生の頃みんなでキャーキャー騒いだ
プリンス四天王の一人

その中の一人と付き合う事になるとは、
高校生の私は思っても見なかったけれど。

蒼真王子は崇さんと違って
物腰が柔らかくて優しそうで、たしか
母方のお祖父様のあとをついで書家に
なられたのよね

そう、すごく和服の似合う……


和服……!!


その瞬間、カチッと記憶が甦った


私、殴られて助けてもらった!


待って!ここ病院?


ハッと窓の外を見ると日が落ちて暗い


紗綾!保育園!!


『今何時?!』


千紗は握られている崇の左手を引き、
腕時計を見た。

『嘘っ!』

腕時計は午後6時20分を差している


『どうしよう!お迎え!!』


飛び起きて数歩歩くと途端に目が回りだし
吐き気がして、その場にうずくまってしまう


『千紗!!』

慌てて抱き上げられた胸にすがりつき、
目眩を堪えながら必死に訴えた。


『下ろして!行かなくちゃ!』

『そんな身体で行けるわけないだろ!』


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