B - Half
「菅坂香也、上がって来い!」

 辻が、呑気に手を振っている。

「下校時刻らしいですよ、先生」

 距離感は上下にアバウト五メートル。

 声を張り上げたら意外と響く。結構恥ずかしかった。

「教師に門限なんか関係ねえだろ」

 シンプルな辻の答え。

 でも、そんなセリフを堂々と、でかい声で叫ばないで欲しい。

「帰りますよ。失礼します」

 どうせ、会話しても無駄。

 俺はとっとと校舎に背を向ける。

「ふうん?」

 辻の、うさんくさい、含みありげな声。

 『やばいかも』、と直感的に足が止まった瞬間。

 ――『それ』がアタマに、降ってきた。
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