夏と秋の間で・甲
 演技だと思った。



 そう思ってしまった方が、楽だった。



 しかし・・・。



「違うの・・・これは、違うんだよ・・・・ごめん。違うの。涙を流すつもりじゃなくて・・・。」



 必死に、何かを否定する早月さん。



 演技ではないと言いたいのだろうか?



 しかし、それを証明するかのように、早月さんの目からあふれ出した涙は止まらない。



 あっという間に赤くはれ上がる早月さんの左右の瞳・・・。



 ・・・・・・・・・・・・・・まったく・・・・・・・・・。



「・・・・・・わかったよ。ファミレスでいい?」



 ため息と紫煙が望巳の口から同時に漏れた。



 演技と真実の見分けることなんて17歳の子どもにできるはずもない。



 いや・・・どちらにしろ、早月さんが涙を流した時点で、望巳に勝ち目なんかない。



 男なんて、所詮は女の涙の前には無力だ。



「うん・・・ありがとう。」



 それでも、早月さんは必死に笑顔を作って、返事を返してくれた。



 その顔はやっぱり可愛かったが、望巳は好きになれそうもなかった・・・・・・。



< 149 / 221 >

この作品をシェア

pagetop