こんな日もあるさ
◆それでも

2002年、日韓ワールドカップの決勝戦をテレビで見ていた。

その少し前、私は年若い友を亡くした。

一人で逝かせるのがつらくてつらくて泣いた。

何もかもが灰色に見えた。

あの子もこの試合を楽しみにしてただろうに。
何度もそう思った。


優勝はブラジルチーム。

笑顔の選手達。

カップを掲げる頭上から無数の紙吹雪が舞い落ちてくる。

いや、紙吹雪だけじゃない

――鶴だ

色とりどりの千羽鶴が舞い降りている。


その一瞬


世界のどこかでは紛争が起きていて、

飢えた人達がいて、

孤独に死んでゆく老人がいて、

私の大切な子がいなくて

――そんな世界なのに


その一瞬


それでも

それでも世界は綺麗だった。


あの子の笑顔が浮かんだ。


そうだね。

君が好きでいてくれた私でいよう。

楽しく日々を過ごそう。

嘆いたり、恨んだりし続けるには人生は短すぎるし、貴重すぎる。

そうして、いつかまた別の時、別の場所でまた一緒に遊ぼうね。



今日も1日が始まる。

いい事も、ついていない事もきっとあるだろう。

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