君にすべてを捧げよう
古くて広い家が、怖かった。
トイレの壁には怖い顔が見えたし、天井にはこちらを見つめてくる大きな目があった。

明るい昼間は忘れているのに、夜になれば嫌でも思い出す。
暗闇に乗じて、お化けたちが自分を食べに来てしまうんじゃないかと思うと、どれだけ眠くても眠れなかった・


わあわあと泣くあたしは、親の悩みの種だった。


「お化けなんていないってば。怖いのはいつでも人間なのよ」


母の見当違いな慰めは何の役にも立たず、あたしはいつもいつも泣いて、泣き疲れて眠りに落ちた。


「カエルの精霊の大冒険の話をしようか」


あれは、いつのことだっただろう。
泣きわめくあたしの枕元に来た少年は、ゆるゆるとお話を始めた。

それはとてもとても面白くて、楽しかった。
どんな絵本よりも、あたしを夢中にさせた。


「もっとおはなしして。もっと、もっと」


天井の目は、妖精の国への入り口。
トイレの顔は悪い精霊から我が家を守る精霊の紋章に変わった。

そして夜は、不思議な御伽の世界に変わった。


「もっとおはなしして。もっと」


おねだりすれば、少年は照れたようにそっと笑みを零した。



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