禍津姫戦記
「では一人にしてくれ。粥はいらぬ……」

 クラトはうっそりと頭を下げて出ていった。姫夜は部屋のすみに畳んであった夜具のなかに倒れ込んだ。一気にその日のできごとが姫夜を襲ってきた。

(兄さま……)

 鎧のぶつかりあう音。悲鳴。美しかったヒュウガの宮が焼け崩れ、カッと恨みに眼を見開いた生首を槍に突き刺した兵士たちが雄叫びをあげる――姫夜はぐっと歯を食いしばった。つかの間、押し殺したすすり泣きが洩れたが、それもすぐにやんだ。
< 70 / 647 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop