溺愛MOON
だけどかぐやが不機嫌なのを見ると、自分の方が悪いことをした気持ちになってしまうのは、やっぱり惚れた弱味というヤツだろうか。


「飲みに行く場所なんて他にないだろ」


不貞腐れたように言うかぐやの台詞はもっともだけれど、この島を深く知らないはずの彼が言うことには酷く違和感があった。

それが私をまた不安にさせる。


私が知っているかぐやなんて、彼のほんの一部に過ぎないのかもしれない。

もしくは、創られた虚像なのかもしれない。


そう考えると虚しさと悲しさが湧き起こる。


「……稲垣さんと知り合いなの?」


かぐやの瞳を見ることはできなかった。

視線は足元に落としたまま。


私は見たくないと思っていた現実の境界線を、自分の手で引こうとしている。

だけどもう後戻りはできない。


「……香月には関係ない」





かぐやと私の世界が壊れる音がした。
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