溺愛MOON
その日から私はかぐやの部屋に泊まるようになった。

かぐやが私が眠っている間にどこかへ行っちゃうんじゃないかって、夜中に何度も起きてかぐやの存在を確かめた。


夢の中でかぐやを追いかけて、泣きながら目を覚ますこともある。

そんな私にきっとかぐやは気づいてるのに、ただ私を慰めるように抱きしめてくれるだけだった。


こんな醜い執着心、友達にも誰にも言えない。


島の出入り口はひとつしかなく、私はその場所で働いているから。

船が出入りする時間には窓口が開いており、私はそこに座ってなくちゃいけない。


だから稲垣さんが船に乗って帰っていったことも知っていた。

あえて目を合わさないように別の作業に没頭する私に、彼が声をかけてくることはなかった。


だけど。

2週間後にもう一度彼が島を訪れた時には、無意識だったからその姿をしっかりと捉えてしまった。


目が合うと気まずそうに軽く会釈する稲垣さんに、私は挨拶も笑顔も返すことができない。

時間が止まったように固まってしまった。


だって。

これが本当のタイムリミットだと理解していたから。
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