溺愛MOON
「あの、すみません」


他の観光客に訝しげに声をかけられてハッと顔を上げた。


「あ、ごめんなさい。何でしょうか?」


稲垣さんが見えなくなった後も私は、席を立つことはなく、ただひたすら機械のように仕事をこなした。

こんな時でも泣けない自分が馬鹿馬鹿しくて辛かった。


何もかも放って駆け出して行けないのが、社会人で大人になってしまった私。


意気地なしなのか、責任感なのか。

そんな融通の利かないのが私。





――かぐやは行ってしまうよ?


……分かってるよ、そんなの。


でも、私に、何ができるっていうの?


かぐやは私を選ばないよ。
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