溺愛MOON
移動する時間も惜しんで、コピー機とデスクを早歩きで往復していたのは、つい先月のこと。


目の前でニコニコと笑顔で手を振るのは、よれてダルダルになったポロシャツを来てキャップを被った小太りのおっさん。

どう見ても漁師風なこの人は一応役場の職員。


私の……上司。


スーツではないにしろ、カラーシャツとタイトスカートというきちんとした格好で出勤した私は、明日からTシャツにジーンズで来よう、とおっさんを見て強く誓った。


おっさんに観光案内所を追い出された私は、パンフレットを見ながら左回りに島を一周することにした。


船着場にはたくさんの漁船が停泊している。


人口1000人に満たないこの小さな島の住人の大半は漁師か民宿を経営している。

観光と漁業で成り立つこの島には若者の姿を見かけることがほとんどない。


だから、若い女性である、というだけで島の人は珍獣を見るかのように、珍しいものを見る目で私を見てくる。


正直、居心地が悪い。

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