レベル・ラヴ
 私がエルシルド様に出会ったのは、王宮に入ってすぐのことだ。
 眼下の道を騎士達が数人歩いており、その中にエルシルド様がいた。
 見た目の美しさに引かれ、私はほのかな思いを抱くようになってしまったのだ。

 そして、去年、こんなふうに窓を掃除している時だ。
 掃除に夢中になるあまり、掴まっていた手を滑らせ、外へと落ちた私を助けてくれたのがエルシルド様だった。

 4階から落ちた恐怖で振るえあがっている私を気遣って、震えが止まるまでやさしく声をかけ手を握っていてくれた。
 あのぬくもりが忘れられず、私の恋はより深いものとなってしまった。
 身分の差がわかっていたからこそ抑えていた想いだったのに、やさしくされただけで想いは大きくなっていった。

 王宮のメイドとして働いて、3年。
 16歳から行儀見習いをかねて王宮に上がってきた。

 私の一族がいる村は西の辺境にあり、少しでも血統のいいオスを捕まえられるようにと王宮に上げられた。
 王宮にいれば血統のいいオスと出会いやすくなる。
 血統がいいほど、王宮の近くに住んでいるからだ。

 一族のみんなも、エルシルド様のような歴然とした差のある血統を求めたりはしない。
 今より、ほんの少しだけ血統のいいオスであればいいのだ。

 私も王宮に来た時はそのつもりだった。
 でも、私はひと目で恋に落ちてしまった。
 まだ春も来ていないというのに・・・。

 普通は春が来て恋をする。
 けれど、ごくまれに、春が来る前に恋をする者がいた。

 時期外れの恋は発情期を狂わせたりすることが多い。
 恋のせいで発情期が突然来たり、来なくなったり、恋をした相手にしか発情しなくなってしまったり。
 私もその一人だ。
 
 普通ならメスは20歳で春が来る。
 今年、私には春が来るはずだった。
 でも、春が来たというのに、私に発情は起こらなかった。
 
 春が来なくてもつがいの相手を見つけることは出来る。
 相手に春が来ていればいいのだ。

 つがいの相手と情を交わし、子を作る。
 それが出来ないのなら、相手を思い続けて誰ともつがわないしかない。

 一族の者に期待されて王都に来たと言うのに、私は季節はずれの恋に落ち、つがいの相手を見つけることができないのだ。
 自分の愚かさに泣けてしまう。
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