〔完〕 うち、なでしこになるんだから

――走ろう。――

 こんなところで体力消耗したくないが、トレーニングになると思い走る。

 ゴールキーパーだって、基礎体力は必要。

 ゴールキーパーは、他のポジションと違って、あまり動かないとみられがち。だから、チーム内で一番体力がない人がやるポジションと思われがち。
 そんなのはただの迷信。
 基礎体力の上に、技術が成り立っているから。

 十メートル先のバス停まで、全力疾走。

 道を歩いている人を、ぶつからないようにうまくよけて。


 バス停に着いた。

 屋根の下には誰もいない。

 深呼吸をして、傘を閉じて、ベンチに腰掛ける。

 道の向こうで、珠理と同じ中学の生徒の姿が見える。

 あっ、バスが来た。

 慌てて立ち上がる。

 バスの扉が開き、珠理は入る。

「あら、今日も練習か。」

 今日も顔なじみの女性の運転手だ。珠理の格好からして、サッカーチームに所属していると思っているみたい。

「はい。」



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