ありきたりな恋

第一章:再会

第一章 再会

 大学を卒業して、京都の私立高校へ赴任した。
 大学在籍期間中は結局、横浜には一度も帰らず、就職が決まっても「忙しさ」を口実にして、実家にさえ顔を出さず、まとまった休みは適当にアパートで過ごしたり、大学で勉強したりして過ごしてきたが、一年目の冬、私は実家に呼び出された。
「和音」
 5年ぶりに会う兄が駅まで迎えに来ていて、すぐに車に乗り込んだ。
「お兄ちゃん、お父さんが死んだって本当?」
「ああ」
 昨日、携帯と学校に電話が入った。
 父が倒れた、という兄からの連絡。
 最近、心臓の調子が悪いとは聞いていたけど、まさか倒れるとは・・・・
 まだ60にもなっていないのに、と思ったけど、とりあえずは急いで、横坂医科病院へ向かった。
 昨日の午後、診察がひと段落ついた時間帯に突然、左胸を抑え、倒れた父。
 その後すぐに兄が応急処置をやったという連絡までは受けていた。
「なんとか一命は取り戻せた、と思ったのに。今朝になって・・・・」
 車の中で兄から話を聞くと、すぐに遺体安置所へ急いだ。
「かずねぇ」
「お母さん」
 母が肩を震わせ、嗚咽に近い声を上げ、私に抱きつく。
 叔父も従兄も婦長も涙を流し、父の遺体を取り囲んでいた。
「ごめんね。なかなか帰らず」
 私は母を抱きしめながら、なだめるような口調でささやいた。
 その時、ドアが開いたかと思うと、足音が近づいてきた。
「佐伯、遅いぞ」
「えっ?先生?」
 それは懐かしい声だった。
 忘れたかった人だった。
 母を兄に任せて、声の主に視線を移すと、そこには少し年を重ねた羽柴先生がいた。
「話がある。少し外へ出ないか」
 私の腕を掴み、廊下に引っ張っていくと、羽柴先生は私をソファーに座らせた。
「たまたま、学院の健康診断の件で相談があって、尋ねたら、倒れていたんだ」
「先生が発見したんですか?」
「ああ」
 顔色が悪い羽柴先生は、頭を抱えた。
「佐伯兄が来るまでに徐々に顔色が悪くなっていくし・・・体は冷たくなるし・・・・」
「先生」
 そっと、先生の頭をなでると、私は静かに、そしてゆっくり伝わるように言葉を発した。
「迷惑かけてすみません。先生、ありがとう」
「佐伯」
 先生の肩を抱きしめると、私まで涙があふれた。
「すみません、先生」
 何も言わず、先生が私を抱きしめ、なだめるように髪をなでる。
「たくさん泣け」
 小さな子供をあやすように優しい口調。
 そんな先生に私は思いっきり甘えた。



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