牙龍−元姫−





「はぁはぁッああ゙痛゙おい寿ィ!てめえこんな事して済むと思ってんのか!?ああ゙!?」





拉致されるかの如く北街から無理やり東街へ連れて来られた“それ”………“片桐豪”は叫んだ。





「“こんなこと”?どんなことだよ?俺馬鹿だからわかんねえよ〜」





その叫びに答えたのは戒吏さんではありませんでした。



薄く笑った蒼衣さんでした。



コツ、
コツ。



ゆっくり“それ”に近寄る。



――……ピチャッ。



血の水溜まりを踏んだ拍子に鳴ッた音が何とも薄気味悪くて。



その冷たい笑みとユッタリとした物腰が不気味で恐怖を煽る。



平常心を保つ“片桐さん”の顔が微かに強張った気がしました。



蒼衣さんは加えていた煙草を綺麗な指に挟むと遠慮なく――――――――――顔に押し付けた。







「ッあぢィ!やっやめろ!」

「“こんなこと”ってこんな事?止めてほし〜の?ん?」

「あ、ああ!ゃ、やめてぐれ゙」

「いや」





更にグリグリ煙草を押し付ける。押し付けすぎて煙草がぐにゃぐにゃに曲がってます。



肌に煙草が触れる度に“ジュッ”“ジジッ”と鳴る音が痛々しい。





「甘えよ蒼衣!何で頬なんだよ!眼球ぐらいやれよ!」

「おいおい無茶言わないでよ〜、空ちゃん。参っちゃうじゃねえかよ」

「はあ!?貸せよ俺が殺る!蒼衣煙草貸せ!あと火!耳朶炙る!」

「だーめ」

「何でだよ!」





ずんずんと蒼衣さんに近寄り“片桐さん”の前に立ち煙草を貸すように託した空さん。



顔がいつも天使とは程遠い。堕天使か小悪魔か、寧ろ悪魔なのかもしれない。それとも死神。何とも言えません。ひとつ言えるのは、あまり良いものではないことだけです。





「眼球なんてヤって伸びちまったら困んだろーが。ちったあ考えろ」

「……あ。そっか」





遼太さんの声に反応した空さんは納得して、掴んでいた蒼衣さんの胸ぐらを離しました。





「も〜、空ちゃん乱暴で俺困っちゃうじゃね〜の」

「うっせえよ!そうならそうと早く言えよ!」





「眼球なんてヤって伸びちゃ困んだろーが。」そう言われて蒼衣がわざと無難な頬を選んだことに気がついた空さん。



言わなかった蒼衣さんが気に食わないようで再度突っかかる。



この人たちのやり取りはエンドレスです。終わらないです。



まず頬が無難って……頬でも十分重症です。



僕が考える一般常識は捨てた方がいいんでしょうか?
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