牙龍−元姫−





「楽しみ?」

「え、」

「顔に書いてあるわよ」





本当は阻止してやろうかと思ったけど、響子の表情を見て邪魔することは出来なかった。



牙龍の一件から極端に人と関わる事を避け始めた響子。千秋と話したのも久々だろう。響子の表情は柔らかく何処かウキウキしていた。





「す、少し、」





照れながら頷いた響子は可愛かった。



あ〜あ、こんな表情、アイツ等にも見せてやりたいわ。



自分達以外の男の事で顔を赤らめる響子なんて見たことないでしょうから。ま、私の弟だけど。でも響子からすれば一人の男。



愉快、愉快。



そんな事言っても絶対に会わせないけど。響子の視界に入ったら張り倒してやるわ。特にあのメカオタク。死ね。まじ死にさらせ。






「あ。見て、これ。千秋こんなの好きかな?」

「は?アイツに作るの?」

「うん。里桜にもね」

「あら。ありがとう」







って、違う!



なんでアイツの分のチョコレートケーキを作るの!?しかも然り気無くアイツに配慮したビターチョコレート……!我が弟ながら腹が立って仕方ない。別に私の分だけでもいいのに。



だけど久しぶりに千秋に会って嬉しそうな響子を見ると何も言えなかった。逆にこっちまで自然と顔が綻ぶ。



響子はイチゴミルクを飲みながら料理本を見ている。






「イチゴジュース、ねぇ…」






目を細めて思案する。



そんな私に気付かず響子は料理本を読んでいる。まあ、意識しないほうが此方としても有難いけど。このまま忘れてくれれば良いのに――――――――――全部、綺麗さっぱり。忘れたら良いのに。








< 39 / 776 >

この作品をシェア

pagetop