牙龍−元姫−






「……っ」





まだ止まらない涙。私は目に当てていた手を外すと、チラッと横目で千秋の方を見た。



私の勘違いだとは到底思えない。きっと千秋は私にサンタさんに会わせたかったのだ。だから、このお店に来たのかもしれない。



千秋の用事は"これ"だったんだ。








「泣いていいですよ」





一言だけ言うと千秋は私の顔を自分の肩に宛がい頭を撫でてくれた。ぶっきら棒な言い方。だけど、優しかった。



その余りにも優しい手付きに私の涙腺は最早崩壊していた。



子供みたいに、ワンワン泣いた。泣き叫ぶ私に羞恥心は無かった。そのとき、店の中に居たお客さんの目も気にならなかった。



泣き終えたときに誰も居なかったから気を利かしてくれたのだろうか。マスターが良い人ならお客さんも良い人ばかりだ。










―――…いつぶりだろうか



こんなにも泣いたのは。



優しさに触れ、真っ直ぐな信念に触れてしまった今日の私は、酷く弱々しかった。
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