牙龍−元姫−

深紅の薔薇

***


薔薇の香りが鼻を掠める。上品で美しい物腰。爪先から毛先まで、手入れが行き届いている。本当に1つ1つが麗しい貴きお方。


『あら。顔が赤いわよ、ミナ。』


それはきっとお姉様の微笑みにやられてしまったからですわ。


わたくしの髪をさらりと掬う、清らかで細い指先まで愛おしく感じます。


『…お姉様。』
『なあに?ミナ。』
『お慕いしております。』
『ふふ。わたくしもよ?』


お姉様の愛情はわたくしとの愛情とは異なりますわ。同じ“スキ”でもわたくしの“スキ”は深く切ないものです。


これは女性であるお姉様を愛してしまった、わたくしの退路なのでしょうか。


『ミナ、そろそろ式が始まってしまうわ。』
『――。』
『ミナ?』


今までできっと一番お美しいお姿。純白のドレスはお姉様の白いお肌に栄えますわ。綺麗なお顔が、更に綺麗さを際立たせる魔法が掛けられたお姉様。


涙で、目の前が霞んで見えにくいですわ。


綺麗です。綺麗ですお姉様。今まで拝んできたなかで一番。ですがこんな形でお姉様の晴れ姿を見るはめになるなんて――‥


『ミナ?』
『お姉様。』


――――決して受け止めたくは有りません。ですが貴女のその幸せに満ちた表情を壊すことはわたくしには出来ません。だからわたくしは想いに蓋をするのです。


『ご結婚、おめでとうございます。』


お姉様との関係を壊したく有りませんから。わたくしはずっと愛しきお姉様の御側におりたいのです。死を別つ、そのときまで。


『ありがとう。』


優美に微笑むお姉様を愛したわたくしの想いは決して消えることは無いのでしょう。決して幻想ではありませんでした。


この愛は本物です。深紅の薔薇に誓って、永遠(とわ)にお姉様を愛し続けます。


【深紅の薔薇】完
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