牙龍−元姫−

マリアさまの来訪











***



わたしは歴史がスキ。
渋い殿さまや武士さまが。
群雄割拠の戦国時代。
仁義なき生き方をする人もいれば民の為にと力を注ぐ人もいる。



カッコいい、
自分を貫くその姿勢が。



貫禄ある佇まいなんて最高。
時代劇はリアルタイムで見てたりする。



歴史は凄い。いま生きているこの時間も歴史に刻まれるのだから。








――――なら、この状況も刻まれるのかと聞かれれば非常に遠慮したい。






こういう状況は、本当に困る。









「ぎょうござあああん!」
「ずみまぜんでじだー!」
「俺達が馬鹿なせいで!」
「響子ざん響子ざーん!」
「不甲斐ないばかりに!」







決して里桜のように気が強いわけではない。
寿々ちゃんのように喧嘩らしきこともしたことがない。



だから余計に困る。
なんの取り柄もないのに。





「(…や、止めてください)」





切実にやめてほしい。



何の変哲もない女一人に何人もの男が揃いに揃って土下座する光景はどう見たって可笑しい。



きっとTV番組で“珍しいビデオ撮影特集”なんて組まれたらノミネートされそう。



野太い声で啜り泣く人や泣き叫ぶ人。声にならない叫びをあげる人。ただただ、私の名前を叫ぶ人。それも全員土下座したまま。



何かの宗教と間違われそうだ。
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