牙龍−元姫−
「…わ、わたしは」
「返事なんて要らないよ」
「…え?」
「返事が欲しくて言った訳じゃないし、響子を困らせたくて言った訳じゃないからね」
いつも
いつも
庵は優しい。
自分たちの気持ちより私を優先させる。きっと私が庵に気を使っていたことに気づいている。
「普通に接して欲しいな?」
「…うん」
コクンと頷いた私。
暗示が掛かったみたいに、自然な動作だった。
庵が栗色の髪をくるくる巻き付けていた指はいつの間にか頬を滑る。
「…庵?」
不思議に思った私は庵を呼び掛けるが、その呼び掛けに応じたのは言葉ではなく、
――――――唇だった。
「これぐらい許してね」
「…い、いま」
私は口を開けたまま、目をぱちぱちと瞬き。
「本当は唇でも良かったんだけどね」
ペロッと舌を覗かせ悪戯な笑みを見せる。
チュッと言う愛らしい音とともに庵は私の頬にキスを一つ、落とした。
頬だとしても不意打ちのキスは顔を赤く染めるに充分すぎた。
「響子の頬って柔らかいね。食べたくなるよ」
「…蒼衣みたい」
「心外だよ。蒼と一緒にされちゃ困る―――でも本当にマシュマロみたいな肌だよね」
「ちょっと、庵ッ」
私の静止も聞かずに庵は私の頬っぺたをつねったり、つついたり、つまんだり。ありとあらゆる動作をする。
痛くはない。だって優しく触ってれているから。でもうようよ動く頬っぺたに変な感覚を覚える。
「もうっ!庵ってば!」
「ははっ!ホント可愛いな〜」
「…っ」
「あ、照れた」
「からかわないでよっ」
「でも可愛いのはホントだよ?」
「…」
またもや顔を赤らめる私に笑う庵を無言で睨む。
それをまた、庵は笑う。
やっぱり庵は1枚上手。癇癪だけど敵わない。