牙龍−元姫−

瞳を奪うパステル











そして不意に
アナウンスが流れた。



単調な声はマイクを通して校内に伝わり生徒達に呼び掛ける。



それは私も行かなければ駄目なもので…





「戒吏、離して?」

「…」

「私行かなきゃ」

「…チッ」





気がつけばグラウンドの中心部には牛は居なかった。



戒吏の腕を掴み離すように託す。一度目は無視されたけど再度言うと渋々ながらも離してくれた。



結局校舎内の涼しい場所にも行けなかった。
私は落胆する気持ちも必死に建て直して戒吏に言う。





「じゃあ。もう行くね?」

「ああ」





私は戒吏に背を向けて歩き――――――出せなかった。





「戒吏」

「…」

「戒吏、」

「…何だよ」





いやいや何だじゃなくて…





「…手、離して?」





戒吏が私の手を握っているから進むにも進めない。ガッチリと私の左手首を右手で掴んでいる。





「…」

「…そんな目、しないでよ」





可笑しいよね。何で私が非難されるような目で見られてるの?



戒吏に“離して”と強く懇願する眼差しを向ける。





「――――チッ」





見つめあっていた目を戒吏が先に逸らし手も離した。「おい、」と呼ばれ戒吏を再度見る。





「浮気すんじゃねえぞ」

「…浮気って、」

「したら殺す」





急に戒吏の独占的が強くなったのは私の気のせいではないはず。



浮気の前に私達はそういう関係ではないという話をしたばっかりなのに。



先程の“後悔”の話をする前は私と少し距離が在った。なのに今はズカズカ踏み込んで押して来る。



この変わりようはなんだ、と目を見張る。





「私、戒吏に殺されるんだ」

「誰がお前を殺すなんて言った。俺が殺すのは浮気相手だ」

「…そっか」

「お前は監禁だ」

「…」





戒吏はさらっと言うが、自分が凄い事を言っているのに戒吏は気づいているんだろうか?



私は少し遠い目をする。



一度目は辛うじて受け止められたが監禁には言葉を失ってしまった。





「分かったか?」

「…うん」

「……」

「…本当に分かってるから、」





小さく頷く私に戒吏は疑わしげな眼差しで見てくる。一体どれだけ私は信用ないんだろうか。
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