獣は禁断の果実を蝕むのか。

「はい。」


ニッコリ笑いながら、スッと立ち上がった。


心なんかスパイになった時から、捨て去らなきゃいけなかった。


皆瀬さんのためじゃない。


私自身が、正体をバレタ時、専務にどんくさい子じゃなく、仕事のできる女だったって思われたい。


それだけが、甘い夢の最後の願いだ。


「ありがとう。」


ゆっくり立ち上がると、深く、深く頭を下げた。


そして、床にはゆっくりと雫が落ちていった。


その雫にギュウウッと胸が締め付けられる。


「私は仕事を全うするだけです。犯罪者になって、借金なんか背負いたくないですもん!!」


満面の笑みを浮かべたのは、切り捨てなきゃいけない心の痛みを見せないため。


本当は…
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