獣は禁断の果実を蝕むのか。

「はい。なんか、倒れた人を見たのは初めてで、パニックになって精神的に参ってしまったみたいで。」

「昨日、夕方に電話きて、話は聞いたけど、私でもショック受けるわ。」


あかりさんが自分のデスクから、ニッコリと微笑みながら答えてくれた。


「ですよね?有給を消化して、今週で退社にしますって。最後の業務が倒れた社長を病院に担ぎ込むなんて、なんかいい気持じゃないわね?」


そう言いながら、眉をゆがめたあかりさん。


「本当に、何もなくて良かったです。」


ニッコリと笑うと、もう、今日で座ることのないデスクに腰を掛けた。


「沙菜ちゃん、専務から電話。」


そう言って、アンちゃんが電話の受話器を持ち上げた。


「ありがとうございます。」


手元の電話に切り替えると、受話器を耳に当てて


「小松です。書類、すぐにお届けします。」


言い終わると同時に


「分かった…」


明らかに不機嫌そうに答えて、すぐに電話は切られた。


そうだよね?


昨日、マンションには居なかったから。

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