ふたつの背中を抱きしめた


「美味しかった、素敵なお店だったね。」

「そうだね、また来よう。」

満足気な私を、綜司さんは目を細めて見ている。

喜んでいる私を見て、綜司さんがホッとしているコトに、私は気付いている。

綜司さんは心配している、昨日過呼吸を起こした私を。

気にしている、私の体と心の疲れを。

それを少しでも癒してくれようとしているのが手に取るように分かる。


お店を出てから駐車場までのわずかな距離を、綜司さんは私の肩を抱いて歩いた。

そして、助手席のドアを開けてくれる前に人目に触れないように私を包みながらそっとキスをした。


優しくて、甘くて、ありったけの愛しさを籠めたキスを。


その唇を受けながら私は思う。



ああ、私、綜司さんがとても好きだ、と。



4年経った今でも、初めてのキスの時のようにときめくこの胸が。

泣きたくなるほど切なさで締め付けられるこの胸が。

私が今でも綜司さんに恋してるコトを教えてくれる。


こんなに私は汚れてるのに。

ときめく胸は何も知らない少女のように勝手に甘く疼く。


唇を離した綜司さんも、切なさを残した瞳で私を見つめる。

そして、少し照れたように笑いながら

「このまま帰るの惜しいね。景色でも見て帰ろうか。」

と私の髪を撫でた。


それらの全ては、紛れもなく恋人のそれであり


私は今、


柊くんに与えられなかった

これからもきっと与えられないであろう

恋人の時間を
綜司さんと過ごしていた。



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