ふたつの背中を抱きしめた



「これ、1枚もらっていい?お守りにする。」

「そんなんでいいの?」

「いい。真陽が教えてくれたんだから、俺の名前の意味。スゴく大事。これで充分。」


そう言って柊は嬉しそうに色紙のヒイラギを1枚折り畳んで胸のポケットにしまった。


「…餞別、何かあげられれば良かった。急だったから何も用意してない。」

「いいよ、そんなの。」

「でも…」


申し訳なさそうな顔をした私に、柊が悪戯っ子の目を光らせてそっと耳許で囁いた。


「じゃあ最後に、キスして。」


その言葉に私の顔がみるみる赤くなる。


「こっ、ここで!?」


柊はニシシっと笑いながら頷いた。


「で、でも…!さすがにここじゃ誰かに見られたら…」


まごまごする私に、柊はとぼけたような表情を浮かべて

机の上の色紙の束をバラバラと床に落とした。

「あーやべー落っことしちゃった。櫻井さん、拾うの手伝って下さーい。」

「えええ??」


シラーっと言った柊の意図が分からず、私は驚いたまましゃがみこんで床に散らばった色紙を拾い始めた。


「そこ、机の下の拾って。」


言われるままに机の下に潜り込むと、同じように身を屈めた柊が一緒に潜り込んできた。

「…あ…」


そこでやっと意味の分かった私はクスッと吹き出し


目を閉じて柊のキスを待った。




ーーーきっと次にするキスは

もうこんな風に隠れたりしないから。




唇を離した柊はそう小さな声で呟いて




「いってきます。」



最後にそう言って、スタッフルームを出ていった。










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