涙空



「郁也と野崎がどれくらいの関係なのかは知らないけどさ」




夏樹が言う。

教室の中は相変わらず騒がしい。耳を塞ぎたい衝動にかけられるが、それをするのも億劫だ。




「あんまり不安がらせると後々お前が困ることになるよ」




その目は揺らぐことなくこちらに向いていた。

短く息を吸って「わかってる」言葉を吐き出す。




「わかってんの?」

「…どうしようが、俺の勝手だろ」

「よく言う」




乾いた笑いが耳に届く。

反感を吐き出す夏樹に、苦笑さえも浮かばす気になれない。




「野崎、結構悩んでたけど。…ていうか思ったんだけどさ。野崎ってあれだな。ネガティブ体質」

「天性だから仕方ない」

「あれ天性なの?」




天性じゃなかったら他になにがあるんだよ。


そう思った。だけどそれを伝えるのも馬鹿馬鹿しくて口を閉ざす。

変わりに、他の言葉を口から零していく。




「…別に、佳奈に信用がないわけじゃない」

「…」

「…時期が来たら言う」

「いつだよ、それ」



< 400 / 418 >

この作品をシェア

pagetop