情炎の焔~危険な戦国軍師~
第36戦 主のために、再び
翌日。


「わあ、綺麗」


私は思わず華やいだ声を上げた。


昨日はそれどころではなかったからわからなかったけど、外は紅葉がすっかり燃えるような赤に染まっていて、辺り一面眩しいほどに鮮やかだ。


「紅葉ですか」


左近様はしみじみと言う。


「真っ赤に情熱的に燃えて、あっけなく散っていく。俺達武士の生き様さながらだ」


「あ、山桜の時と同じようなこと言ってる。もう言わないで下さいって言ったじゃないですか」


「そうでしたっけ」


この人がそう言うと、本気で忘れているのかとぼけているのかわからない時がある。


「そうですよ。それ以上言ったら口を縫いますからね」


私も山桜の時と同じことを言った。


「おや、怖いことを言うんですね」


「当たり前です」


「そうですか。しかし、口を塞ぐならもっといい方法が」


それを聞いてだいたい察しがついた私はつかつかと左近様に歩み寄り、唇を重ねた。


その先は聞いてあげないし、言わせてあげないんだから。


「…あんた、ずいぶん大胆になりましたね」


顔を離すと、彼の大きな目が瞬く。


「しかし、大胆な友衣さんも魅力的だ。だったらもっと言っちゃいます。紅葉は俺達武士のようだ。紅葉は俺達武士のようだ。紅葉は俺達武士の」


「悪ふざけはやめて下さい。それならもうしてあげません。本当に縫いますからね。法春さん、針と糸下さい!」


「冗談ですよ。すみません」


反省しているんだかしていないんだかわからない顔で笑っている。


むう。


左近様はいつも私をからかってアブないことばかり言う。


なのに、そんな所さえも愛しく思う私がいる。


なんだかんだ言っても、やっぱり好きなんだな。


だから命を捨てる覚悟をしたし、失ったと思った時には心身共に疲れるまで泣いたし、何よりこの人の欠点も知っていながらずっと一緒に生きていきたいと思ったんだ。


改めてそんなことを考えながら、また紅葉を眺める。


その時、否定したはずの左近様の言葉が口をついて出た。
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