情炎の焔~危険な戦国軍師~
それから私は城中を探した。


まるで佐和山城の時に戻ったみたいに。


だけど、彼は消えてしまったみたいにいなくなっていた。


「左近殿がどうされたのだ?」


左近様の名前を呼びながらうろうろする私を見て、幸村様が訝(いぶか)しげな顔をしていたが、本当のことは言えなかった。


その後、城下町にまで足を伸ばす。


佐和山城下でのデートを思い出すほどに、往来に多くの人々が行き交って活気を見せている。


しかし、求めている姿はこの喧騒の中にはない。


饅頭屋にも、風車屋にも、お茶屋にも、髪飾りを売っているお店にも、妓楼にも、飴細工のお店にも彼はいない。


「はあ…」


探し疲れた私は淀川のほとりに座り込んだ。


すでに太陽が西の空に沈み始めて空が薄いオレンジ色に染まっている。


夕日を浴びてキラキラと光を振りまく川面がやけに眩しい。


「私があんなひどいこと言っちゃったせいかな」


ぽつりと呟き、ビー玉くらいの大きさの石を適当に掴んで川に投げ入れる。


石はポチャンと小さな音を立ててきらめきの中へ消えた。


「えっ」


ふと顔を上げると、10メートルほど右手に小さな船着き場がある。


そして今、一艘の舟が陸を離れた。


そこに乗っていたのは…。


「左近様!」


しかし、彼は私の姿を一瞥(いちべつ)しただけでそのまま離れて行く。


「おいて行かないで下さい!」


叫んで私は小袖が濡れるのも構わず川へ入っていき、後を追った。


しかし無情にも、距離が数秒の間にどんどん空いていく。


嫌だ。


行かないで。


お願い。


水位が胸の辺りまでになった頃、私は舟に向かって力の限り叫んだ。


「左近様あっ!」
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