情炎の焔~危険な戦国軍師~
第50戦 本当の気持ち
ーサイド左近ー


友衣さんと大坂に連れられて来たその夜。


いきなり環境が変わって少し疲れた俺は、幸村に用意してもらった部屋で早めに床についた。


しかし、朝目覚めると…。


「…ん?」


「ごきげんよう」


いつのまにか俺の布団に、りつが潜り込んでいたのだ。


しかも、一糸まとわぬ生まれた時の姿で。


「どういうつもりだ」


「左近。今、とてもあなたを壊したい気分なの」


そう妖艶に言ってフッと微笑む。


普通の男ならこれだけで骨抜きにされそうだが、俺は黙って近くに脱ぎ捨てられていた小袖を取って差し出す。


「何を言ってる。早くこれを着ろ」


言いながら、なぜか妙な焦りに襲われる。


りつはそれを見抜いたようだ。


「女の裸でうろたえるなんて、誑しと言われたあなたらしくないわね。昔のあなたは燃えるように激しかったのに」


眼前の女は至極冷静である。


「やめろ」


「そんなにあの子しか見えないのね」


「当たり前だ」


「つまらないわ」


「そうだ。俺はもう誑しでも何でもない。あんたにとってはさぞつまらない男だろうさ」


「あなた、ずいぶん変わってしまったわ。そんなにあの子に入れ込んでるのね」


「ああ。あんたがどんなに色仕掛けをしようとも、俺が抱くのは友衣さんだけだ」


だから早くこれを着て出ていけ、と言おうとしたが、りつの驚きの発言でそれは出来なかった。


「でも、残念ね。あの子、もうここに来てしまったの」


「!?」


「脅しじゃない、本当よ。あの子が何をしに来たかはわからないけど、わたし達を見て無言で泣きそうな顔して出ていったわ」


ああ。


これが焦りの正体か。


友衣さんに見られて誤解されはしまいかという…。


でも、もう見られてしまっていた。


何て言えばいいんだ。


「とにかく俺にも彼女にも、もう近付くな」


それだけ言って俺は部屋を飛び出した。


友衣さんはその日から目を合わせてくれることがなくなった。


ふとした瞬間に悲しげな顔をしているのを見て、りつの言ったことは嘘ではないと改めて思った。


だが、かける言葉が見つからない。


誑しと言われて遊んでいた頃は、うわべだけの巧い言葉を並べて女を悦ばせていた。


しかし、彼女にだけはそうするわけにはいかない。


そんな調子でまともに話も出来ずに過ごしていたある日、廊下で彼女に話しかけられた。


「あんた…」


その顔は思い詰めた様子であり、俺はそう言うだけで精一杯であった。
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