情炎の焔~危険な戦国軍師~
第10戦 明かされた胸中
それから俺は数日間、大坂に赴いて徳川家や世間に関する様々な情報を得てから佐和山城に戻ってきた。


夜。


「大坂はいかがでした?」


褥の上で葵が聞いてくる。


「ああ。色々な情報を得た」


「それは何よりですね。お供の者達が言うには、また妓楼に行って特定の女郎をひいきにしていらしたとか」


葵の言葉に苦笑いしながら俺は言う。


「ああ。垂れ目で内気な女だ。どことなく友衣さんに似ている」


「最近のあなたはいつもあの方の話をなさいますね」


「そんなことはない」


「私は前から気付いておりましたよ?誑しの左近様ともあろう方が、真剣に恋なさるなんてこともあるのだなと思いました」


その減らず口を、前のように唇で塞ぐことは出来なかった。


友衣さんの顔が頭に浮かぶ。


「左近様」


そして俺を呼ぶあの声も。


「ほら、やはり」


葵は笑っていた。


「意地を張るのはやめてはいかがです」


「意地だなんて」


「気付いておりました。私を愛撫して下さる時のあなたの目が、友衣さんを見る時のそれと同じであることに」


その言葉に、俺は観念して本心を打ち明けた。


「…すまないな、葵。確かに俺は友衣さんが気になって仕方ない。それどころか彼女に気持ちを打ち明けようとしたんだ。なのに俺はお前を今、また抱いた」


「私は侍女としてあなたのそばにいられるだけで十分です。それなのに、こうして幾度も褥を共にして下さった。これ以上の幸せをどうして望みましょうか」


「葵…」


「今やあなたの心にあるのは私ではなくあの方なのでしょう?ならば遠慮はいりません」


葵に感謝しながら俺は自分の気持ちを確認した。


「友衣さん」


咲く笑顔。


泣き顔。


俺の名前を呼ぶ声。


口ではそっけないのに顔には嬉しいということが表れているところ。


すぐに恥ずかしがる純粋さ。


優しさ。


守りたくなるような頼りなさまで愛おしい。


あの日、もし殿に上杉家の件で遮られなかったら言うつもりだった。


俺はあんたが好きです、友衣さん。


心から…。
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