ヴァージニティー
「――気持ちよかった、ですよ…」

荒い息を吐きながら言った樋口に、夕子は言葉を返せなかった。

樋口に抱かれてしまった。

自分は汚れてしまった。

…朝人を、裏切ってしまった。

「――泣くほど、気持ちよかったですか?」

涙を流す自分に、クスクスと樋口が笑った。

(違う!)

樋口に言い返したいけど、今のこの状況では言い返すことができない。

夕子は抜け殻になってしまったかのように、ぼんやりと天井を眺めた。

いっそのこと、自分を殺して欲しいと思った。

(――あっちゃん…)

心の中で朝人の名前を呼びながら、夕子は涙を流した。
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