呪われ暗殺ガール
と言っても一介の使用人が送る一日なんてたかがしれている。
朝、日が昇る前に起床して日が暮れるまで王宮内の雑務に追われて。
たまに仕事仲間と給仕室でお茶をしながら雑談するくらい。
今日も例に漏れずそんな一日だった……筈だ。

が、就寝後に事件は起きた。
使用人宿舎の自室にて寝間着でベッドに入っていた筈が――次に目を覚ました時には王子殿下の寝室に居て服装も仕事着で、更にはベッドの上の殿下にナイフを突き付けていた。
…そして今に至ると言う。
間一髪、グレン様が止めに入ってくれたから未遂で済んだとは言え、現状その決定的な姿を殿下含め二人に見られている。
―――果たして私は殿下の寝室<ここ>から無事生還出来るんだろうか。

「……それでも私が殿下を暗殺なんてする訳ないんです!」
「うん、もうその言葉は聞き飽きたから」
「なっ」
精一杯の主張をバッサリ切り捨てるグレン様。
朗らかそうな見た目の割に仕事の鬼だとは思っていたが、ここまで冷徹な人だったとはと愕然とする。
――主と部下ではどちらを優先すべきか分かりきった話とは言え、彼は侍従長なのだ。
此方の言い分も少しは聞ける位の器があっても良いんじゃないだろうか。
少なくとも普段の私の言動や勤務態度を見てくれているならば、こんなふざけた事態にも何か裏があると気付く筈だ。
が、グレン様の言動からはそうした様子は伺えない。
………つまり、彼にとって私は大勢いる使用人の中の一人にすぎないと言う、事で。

「――泣いた所で情状酌量なんてするつもりないから」
「――――」

ああもう本当に何でこんなクソッタレ上司が好きなんでしょーかね、私。
< 2 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop