ゆきんこ





やっぱり……



見えないや。






バスの後方。



ブザーの音と共に、ドアが開く。



次々と乗る乗客。



その中で…



ひときわ賑やかな集団がいる。





「さみー!お前カイロ貸せよ。」



「やだよ。自分で持ってこいや。」



そうやってじゃれ合って……




彼らは空いてる一番後ろの座席に座る。




「…新野ー、これ、誰の曲?」


「あ?知らん、兄貴が勝手に入れた。」



音楽…聴いてるのかな。


ふーん…、お兄さんいるんだ。



「ゆき。ゆーきっ!」



「え。あ、はいはい?」



「うち今日鍋するらしーけど、幸もくる?」



「わ、行く行く!」



「いっこは闇鍋だけど。」



「げげっ、やっぱやめよっかな。」



「だーめ、あんたいないと盛り上がりに欠けるもん。ヨッ、リアクション女王!」



誉められてるんだか、何だかなぁ…。



「…まあね。近年デビューするかもしれないから、今のうちサインしとこっか?」


「…………。いらないし。」





ガタンガタンと……


右に左に揺れながら……




バスはどんどん進んでいく。




【次は○○ー…お降りの際は降車ボタンで………】




「…おっと……。」




咲が毛糸の手袋を取り出し、ふわふわの耳あてと共に…装着した。




……バスが止まる。





「じゃあね、幸~、また後で!」




親友は。


いつも先に降りていく。



気づけば窓はまた結露して……



私の軌跡を消していく。


まるで黒板消しで消すように、掌でそれを拭って……




こっちを見る咲に、ぶんぶんと手を振った。




君のことも……




こうして、堂々と見れればいいのにな。





発車したバスの中……。




そこには、もう数人しか乗り合わせていない。





私と………、



そう、一番後ろの君と。







「次は…○○ー……。」



車内アナウンスに、私は降車ボタンを押して……


その時を待つ。





定期券を見せて、一番に降りる。



それから……



わざと立ち止まって、そこで手袋をはめる。



その時に……



君はやっと降りてくる。





新野 滉……。




私が、気になるひと。

< 4 / 234 >

この作品をシェア

pagetop