溺れる唇

私は改めて、仮眠中の上司を眺める。


何度か見た覚えのあるベージュのパンツ。

くたびれた、白っぽいシャツ。


シャツを選んだというのは、
笠井にしては上出来だが、
ボタンの半分以上が止められていない。

“着てきた”というより、
“ひっかけてきた”という方が
正しいように思えた。


「元は悪くないんだけどね」


この格好で、よく入口の警備に咎められず
入れたものだ。



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