10日間のキセキ
「あ?ああ、堅いこと言うなよ。ま、いいじゃないの、あだ名だと思えば。」
『…、』再び小さくため息がでる。
(もう、名札のプレート、平仮名に書き換えようかな)
「特別残業で手当だすから、な!」
『あの、取り掛かる前に電話いいですか?』
「お、彼氏か?」
『いえ、箱入りなもんですから。』
「15分休憩つけるよ。」
『・・ありがとうございます。』
オフィスの中、人も疎らになるのを待ってから
携帯を手にして立ち上がった。
一番端の窓際のあたりまで歩き、携帯を開く。
コール1回、
“はい、キノウエです”
『ママ?もしもし、あたしだけど。』
“あ、ああ?真奈ちゃん?”
なんで驚いてるの?ナンバー出てるでしょうに。
『残業になっちゃったから、』
“え、そうなの?!”なんて、声が嬉しそうなのは気のせいだろうか。
それになんだか受話器の向こう、騒がしい気配がする。
姪っ子の澄香のハイテンションな叫び声が度々聴こえる。
お客さんでも来てるのかも知れない。
“そうそ、なんか荷物着いてるわよ”
『ホント?よかったぁ。』
“部屋に運んでおいたから。
あ、それから、帰り、駅に着いたら電話して。”
『・・・? はーい。』
(…そんなこといつも言わないのに)
少し腑に落ちなかったけど、迎えに来てくれるのかもと勝手に解釈して携帯を閉じた。
そういうことなら今晩家に帰ってからも忙しいし。
注文しておいたノートPC、休み前に届いてくれて助かった。
これで予定通り進められそうだ。