幸せ家族計画

　お店の扉を開けると、香ばしいコーヒーの香りに包まれた。
ここはバス停前にある喫茶店『Shion』。
スーパーでの同僚に「お昼のランチがおいしいわよ」って教えてもらってから、一度行ってみたくて仕方がなかったお店だ。


「ここって、英治の家からそう遠くないよな」

「そうなの？」

「ああ、ただ電車の路線からは離れてるから、あいつは知らないかも」


そう言って、達雄が目の前に腰掛ける。


　ここ数日の彼の行動はかなり面白い。

何日も前から、「いい産婦人科なんだって」なんて言っては、遠くの病院の資料を持ってきたり。

通院の事を考えて、私が「一番近いところに行く」ってそっけなく答えたら、ひそかにキッチンで落ち込んでいたり。

浮き沈みが激しくて、どちらかと言えば空回りばかりする。

そういうのって本当なら情けないって思うところなのかもしれないけど、私はなんだか嬉しかった。


私よりもずっと落ち着かない彼を見ていると、逆にこっちは落ち着いてきて、ゆったりと幸せをかみ締めることができるし、
お腹をさすってとても嬉しそうに笑ってくれる彼に癒されたりする。

そう。
例えて言うなら、お腹の辺りからむくむくと幸せの種が芽吹いてくるような感じ。

この子が幸せをつれてきてくれてるんだなって思う。