一緒に暮らそう
「そこを何とか空けてくれないかしら。その日、私たちの恩師で元客員研究員のラザフォード先生が来日されるのよ」
「ラザフォード教授が? 先生は今、どちらにいらっしゃるんだ」
「先生はアメリカに戻られて今はMITで教鞭をとっていらっしゃるわ。今度、5年ぶりに来日されて、私たちの母校の記念講堂で講演をされるご予定なのよ。応用物理学の国際シンポジウムがあそこで開かれる予定で、彼も講演者の一人なの。その後の親睦会には、私たち同窓生も招待されているのよ。あなたのところには研究室からその連絡は来ていないの?」
「ああ。メールアドレスを変えた時に研究室のメーリングリストから外れちゃったからな。そうか、先生が日本に来られるのか……」
 新多が学生時代のことを思い出した。彼と翔子が所属していた学科にはアメリカの一流大学から派遣された外国人教員がいた。

「先生にはお世話になったでしょ。一緒に先生の講演を聞きにいきましょうよ。先生はあなたが投稿しようとしている学会誌の選考委員もされているわ。是非、親睦会にも参加して久しぶりに先生に挨拶をするべきよ」

 新多は海外の権威ある研究学会へ自分の研究論文を発表しようとしている。前回の締め切りには間に合わなかったが、次回の募集には必ず応募したいと考えている。その学会の選考委員を務める人物が恩師であるなら、是非とも会って顔をつなげておくべきだろう。
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