一緒に暮らそう
 それから修士課程に入学した。翔子は専攻を少し変えて、応用物理学を研究することにした。

 その研究室には同期で斉藤新多がいた。
 翔子はすぐ彼に目が行った。
 長身の二枚目。寡黙な性格で黙々と研究に打ち込むタイプ。
 面白みにはちょっと欠けるかもしれないが、理系なのだから仕方がないだろう。何より、彼は研究室の中でも頭角を表している秀才で、教授のおぼえもめでたい学生だった。

 翔子は助手から新多へ乗り換えた。
 新多は勉強一筋の奥手な若者だったので、彼を取り込むのは簡単だった。
 今でもよく覚えている。誰もいない夕方の研究室で、偶然を装って新多を待ち伏せした。
 翔子の告白を聞いた彼は、少し戸惑った表情を見せ、「ちょっと考えさせてほしい」と答えた。それから数日後、翔子が再び彼の意向をたずねると、「友達から始めるならいい」と彼は言った。
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