一緒に暮らそう
 翔子が「お疲れ」と声を掛ける前に、彼は彼女に一本のビニール傘を差し出した。
「これ、使えよ」
「あなたのでしょ。差さないと濡れちゃうわよ」
 翔子は彼を見上げる。
「俺はいいんだ」
「何でよ。濡れると風邪ひくわよ。傘なんか私、その辺のコンビニで買うし」
「お前こそ、そのかっこうで濡れたら風邪をひくぞ。いいから、持ってくんだ。俺は走っていくから大丈夫だ」
 新多は傘を無理やり翔子に押し付けて、雨の中を駆け出そうとする。
 翔子は呆然として傘を広げる。

「アラタ。待って!」
 翔子が新多を呼び止める。彼が振り返って彼女を見た。

「待って。待ってよ」
「何だよ」
「あなた、もう怒ってないのね」
「何を」
「私があなたと垣内さんのことに口を挟んだこと」
「ああ。何を言うかと思えばそんなこと! 安心しろ。もう何とも思っちゃいないって。じゃあな」
 新多はまた体の向きを変えようとする。
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