一緒に暮らそう
京都旅行
 紗恵が新多と会うのは月1,2回。毎週会おうと思えば会えるけど、そこまで頻繁に会わなくても平気だ。彼に会えない週末に寂しさがつのるなんてことはもうなくなった。デートをしない週末は、新多に投稿論文の執筆に専念してもらいたいと紗恵は思っている。海外の権威ある学術誌が募っている投稿論文の今年下半期の締め切りが迫っているのだ。
 
 10月に入ってだいぶ日が傾くのが早くなってきた。山の町は平地よりもさらに冷えるようになってきた。これからの季節、ますます温泉への入浴が気持ちよくなってくる。新多に会えない週末、紗恵は近隣の公共浴場で骨休めをしている。温泉にたっぷり浸かった後、休憩スペースでラムネ飲みながら駄菓子をつまむのが、休日の午後の何よりの楽しみだ。彼女はお一人様でも結構遊びに行ける方だ。


 10月も半ばに入ってから、新多が京都へ遊びにいこうと誘ってきた。件の投稿論文はもう仕上がって、すでに学会の事務局に提出できた模様だ。
 京都は新多が6年間の学生生活を送っていた思い出の町だ。有名な観光地でもあるから、紗恵も一度は訪れてみたいと思っていた。紅葉の時期にはまだ早いと紗恵が言うと、その時期の京都はものすごく混むから避けたいと彼は答えた。


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