一緒に暮らそう
 その時、翔子の胸にある思いが去来した。
 どうせ言ってもむだだろうけど、彼女は性懲りもなくそれを口にしてみたくなった。彼女は自分の気持ちを言わずにはいられない性分なのだ。

「ねえ、アラタ。私が彼女だったら迷わずあなたについていくわ。あなたと一緒なら地球の果てにまでついていく」
 また言ってしまった。
「お前には大切な仕事があるだろう」
「そうね。私にとって仕事は生きがいみたいなものだけど、あなたのためなら仕事だって辞めてもいいわ。それくらいあなたが大切なのよ」
「翔子……」
 彼女の目の前で、新多は困った表情を浮かべ始めた。ちょうど、あの夏の飲み会の時のように。

 新多はもはや何をどう言って良いかわからなかった。本当に女というやつは、どうしてこう妙なことばかり言うのだろうか。
< 196 / 203 >

この作品をシェア

pagetop