一緒に暮らそう
「なーんて言っちゃって、ホントは主任もあのオネーサンが気に入ったんでしょ」
「フン、くだらない」
「またまたー、とぼけちゃって」
 三上は普段から軽口をきく部下だ。

「じゃあ、お前きくが、一体あの店主の何がそんなに面白いんだ? 見たところごく普通の女のようだったが」
 彼女の顔の造作はきれいだったが、新多はそのことにはあえて言及しなかった。
「彼女、ハタチくらいの頃は東京にいてキャバクラ嬢だったそうです」
「今日び、キャバクラでバイトしてる女なんかさほど珍しくもないだろ」
 ただし、新多はその手の若い女は苦手だが。

「それが彼女、オヤジ向け漫画のキャバ嬢ものを地で行くようなやり手だったそうなんですよ。営業成績のためには枕営業も辞さないし、ヤクザまがいの土建屋の社長の愛人だったみたいです。あの可愛いお顔だって自前かどうかわからないですよ。胸だって結構おっきいじゃないですか。なんでも、店の常連客の一人の美容整形外科医に接近して、正規の料金よりもかなり安く整形手術と豊胸手術をしてもらったらしいです。その時だってそのお医者さんにイイコトしてあげたんじゃないんすか? 三十路も近づいて、いつまでも豪快に水商売ができなくなったから、田舎に戻ってきたって話ですよ」
「三十路? 彼女はせいぜい二十五くらいにしか見えないが」
「俺の聞いた噂じゃ、アラサーだそうです。あのオネーサンのことだから、今でも時々東京に出掛けて、その美容外科医にアンチエイジングでもしてもらってるんじゃないすかね」
「……」

 胸の中で何かがしぼんでいくのを感じた。
< 6 / 203 >

この作品をシェア

pagetop