一緒に暮らそう
 新多は男ばかりの三兄弟の二番目に生まれ、中学高校は私立の男子校に通っていた。一期校の国立大学に進学し、男ばかりが在籍する理工学部で学んでいた。大学院を修了した後、研究員としてトイダ製作所に入社したが、そこもどちらかというと男臭い職場である。女性遍歴は少ない方ではないかと彼自身は思っている。大学生の頃に、近隣の女子大の学生に告白されて付き合ったことがあるが、彼より先に就職した彼女が職場の上司とデキてしまってジ・エンド。修士課程時代の同級生といい感じになったこともあるが、就職後に地方への転勤を命じられてそのままフェードアウト。二十代後半の頃に派遣の女性事務職員に言い寄られて付き合い、彼女から迫られるままに結婚も約束した。しかし、新多の仕事の多忙さに業を煮やした彼女は去っていった。ふられた経験から、ますます異性との交際に自信をなくして彼女いない歴を更新している。

とはいえ、どういうわけか学生時代から、よその女子校の女の子から手紙をもらっていた。同級生曰く、新多は長身でなかなか見栄えが良いのだそうである。だが、彼自身が気に入った女の子と付き合えた試しはなかったので、自分はどうでもいい異性から惚れられる運命にあるのだろうと新多は感じている。第一印象で彼がちょっぴり好いなと思う女の子は、皆彼氏か亭主持ち。そうでなくても今回のように、「ワケあり」な女だったりするから、彼の恋心は初期の段階で潰えてしまう。仕事が忙しいことも手伝って、彼はシングルライフをなお一層満喫する次第となっている。もちろん、恋人が欲しくないわけではないのだが。

ともかく部下の噂話を聞いて、「ふたば屋」へは本当に惣菜だけが目当て通うことになりそうだと新多は思った。
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