無口な彼のカタルシス




『彼』の住んでいるアパートは、学校から徒歩15分。大通りから一本南に入った狭い道路沿いにある。


一軒家がズラリと並んでいる中、仲間外れみたいにポツンと佇む二階建てのそれ。

けれど南側は延々田んぼだ。



いいところだと思う。



『彼』が住んでいるのは二階だから、白に近い灰色のコンクリートの階段を上る。



部屋の前まで来ると、『彼』は身を屈め、鉄扉の下の方に取り付けてある郵便受けから中を覗く。どうしていつも、そうしてからしか部屋に入らないのか、ずっと不思議に思っていた。



中を確認した『彼』はゆっくりと身を起こす。いつもは家に入るのに、今日は入らない。


じぃっと足元を見詰めて動かなくなった『彼』。やがて、思い出したように顔を上げわたしを見た。



(何かあった?)


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