エゴイスト・マージ

「作る?裄埜君が?」

「うん、俺んちお袋いないんだ」

「…………」

「はは、気にしなくっていいよ
もう慣れてるし、ガキの頃に病気でね」

屈託無く笑って見せるその顔に
少し安堵した

「いつもは部活あるから
テキトーなモノしか作らないんだけど
シチューとかカレーだと
作り置きもできるし」

「大変だね」

裄埜君が料理をしてる姿……

「あ、今想像して笑ったろ」

自然に顔がにやけていたみたいで
すかさず突っ込まれる

「部活、サッカーだっけ?
一年からレギュラーなんて凄いね」

誤魔化す様に話題を変えると裄埜君は
素直に乗っかってくれた

「ありがとう、今度さ……」


「お、ゆっきーじゃん~!ひさー」

「え?マジマジ?ドコドコ?」

その声の方向に向くと違う高校の
制服を着た見知らぬ男子の集団がいた

裄埜君とその男子達は知り合いらしく
お互いに久し振りだなと
一気に盛り上がる

「なんでそっちの学校行ったんだよー
寂しいじゃん」

「って気味悪いこというな」

ふざけて抱きついてきた男子を
振り払う真似をする
裄埜君に別の男子からも声が掛かる

「でもサッカーまたやってるんだな、
それスパイクだろ?」

「ああ。続けてたら試合で会えるじゃん」

「敵かよ、まぁボコボコにしてやるがな」

「俺の台詞取んなよ」

一盛り上がりしたところで
その内の一人が私に気が付いた

「お、もしかして彼女?ちわー」

何々?と他の人も続いて覗き込まれる

「ち、違いますっ」

だけど、私の反論も
まぁまぁと軽く流されてしまう


「ああ通りで電車で、送って……」

友達の誰かが言いかけた所で
裄埜君が私の前に立って
興味津々に私を見る男子との間の
盾になってくれた

「オイ!分ってんならお前ら
いい加減にしろちょっとは
気ィ利かせろって」

「悪りぃ、又ね~彼女」

「裄埜をよろしくね~」

「ゆっきー試合で会おう」

丁度タイミング良く着いた駅に
どやどやと降りて行ってしまった

急に静かになった車内で
取り残された感のある私達は
再び二人きりになってしまう


「ごめんな、
中学の時のクラブ仲間なんだ
騒がしいけど皆イイヤツでね」

なんとなくそんな感じだろうとは思った

「どうして同じ学校には
行かなかったの?」

「だってこっちは共学だったから」

「え?そんな理由?」

「だって向こうはエスカレーターだけど
何故か高等部から男子高になるんだ
詐欺だろ?学生生活には潤いがないとね」

そう悪戯っぽく笑った顔につられた私は
声をたてて笑っていた

心の中で

裄埜君が友達に囲まれている姿を
見ながら先生を思い出していた

どんな学生で、友達と話しながら
帰ったりしていたんだろうかと想像した

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